成型品と3Dプリンター品

 先日、弊社より“ながらゲーム”用の片手操作アタッチメント「コントリンカー」が発売されました。

 正式に発売されたのは左手用のものだけですが、キャンプファイヤーでは「3Dプリンター製右手用コントリンカー」もリターン品として用意しました。
 使用したのはFDM式の3Dプリンター「Raise3D Pro2」です。

 左手用は成形品ですが、やはり成形品と3Dプリンター品では設計においてやれること・やれないことが違ってきます。
 外観上では極力違いが出ないようにはしましたが、細かいところで互いに有利な点を考えて設計変更を行いました。

 今回はその違いをちょっと紹介してみようと思います。

①基本板厚・肉盗み

 成形品は、基本板厚を設定して設計をします。
 本設計の場合だと基本板厚は1.5mmです。
 この板厚の設定から大きく外れる構造にしてしまうと反りや引けが発生してしまい、綺麗な成型が行えなくなってしまいます。
 ただし、設計の都合で板厚のムラはどうしても出てしまい(偏肉)、そこは成型の条件によって調整してもらったり、あるいは形が悪くなるのを多少我慢したりする必要があります。
 そういったムラを抑える為の手段として肉盗みが行われます。
 写真上、成形品は格子状にくり抜かれています。

 対して3Dプリント品は肉盗みを行っていません。
 3Dプリンターは線を書いていくイメージなので、板厚がそもそも外装の2ライン分だけ。
 充填率といって、中にどれだけぎゅうぎゅうに樹脂を詰めるか設定はできますが、それでもどうしても隙間はできる為、板厚による反り、というのは発生しません。
(ただし、一筆書きのラインが長くなれば樹脂は収縮するので反りが発生します)

 以上から、成形品に比べて基本板厚・肉盗みを無視して設計を行うことが出来ます。

②型抜き方向

 成形は上下の金型でサンドイッチして成型するイメージなので、基本的に上下から見える範囲でしか設計することが出来ません。
 スライド型という手段がありますが、金型のパーツ数が増え、金型費が高くなったり、壊れやすくなったりする為、極力上下方向で抜ける形状を作るのが設計の腕の見せ所です。
 コントローラーとの勘合部は背面からまっすぐ抜けるように穴が空けられています。
 ですが、それをすると当然、強度は弱くなってしまいますし、外観的にも不要な穴があり、綺麗には見えなくなります。

 対して、3Dプリントであれば、上下方向への拘りは多少気にせずに設計ができます。
 その為、強度を優先して、穴埋めした設計としています。
 しかし、余りにも宙に浮いた形状となると、次はサポート材が付いてしまうので、剥がす手間や表面の汚さが出てきてしまいます。

③抜き勾配・PL

 成形は金型に製品がくっ付いて剥がせなくなるのを防ぐ為、抜き勾配といった角度を付ける必要があります。
 0.5~3°程度付ける必要があり、垂直面に見える面でも上下抜き方向であれば、実際には緩い斜面になっています。
 また、その抜き勾配の切り替えライン(パーティングライン、PL)が製品表面にくっきりと残ってしまいます。
 今回の製品程度の高さであれば、さほど影響はありませんが、これが高くなればなるほど、寸法差の原因となってしまいます。

 対して、3Dプリンタは垂直に積み上げられる為、抜き勾配0°で設計することが可能です。
 今回はわざわざここは変えなかったのですが、機能を優先した設計をする上では障害となる要素なので、省けるなら省きたいところです。
 PLに関しても発生はしませんが、そもそも積層痕が残ってしまうので、成形品よりも表面が荒くPLを加味しても成形品の方が綺麗です。

終わりに

 今は、大多数の企業で成形品を作る前の試作用として3Dプリンターを使用していると思います。
 私も試作段階では成形品用の設計と同一のものを3Dプリンターで造形し、確認を行っていました。

 しかし、いざ、製品用として3Dプリント品を活用しようとすると、成形品に対して制約が結構違うものだと気づきます。
 3Dプリントの方が制約が少なく、自由な設計が行えるように思います。

 ただし、強度面や表面粗さなど、まだまだ3Dプリントでは成形品に敵わない要素も多数あります。

 成形用の設計、3Dプリント用の設計、どちらも別のスキルとして今後は必要になってくる未来が来ているのかもしれません。

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